自社サイト・アプリ上でのデジタル販売を可能にする動画DXソリューション「Firework」。小売事業者やEC事業者を中心に動画の活用が進む中、Fireworkを通じてどのような顧客体験を提供できるのか。収益向上のために動画をどう活用すべきなのか。Firework Japan カントリーマネージャーの瀧澤優作氏に、デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏が話を聞きました。
ショート動画のリアルさが求められる時代に
鈴木:Firework Japanとはどんな会社なのか。事業内容を教えてください。
瀧澤:当社は小売・サービス事業者向けに「Firework」という統合型動画ソリューションを提供しています。自社のWebサイトやアプリに、SNSで使われるような動画をノーコードで実装できるようにします。小売事業者はWebサイトやアプリを使う利用者に対し、動画による「圧倒的なリアルな体験」を通じて、ブランドや商品を販売・訴求することができます。
鈴木:瀧澤代表はどのような経緯でFireworkに参画したのでしょうか。
瀧澤:Fireworkは米国に本社を構えますが、私は創業から7人目のメンバーとして米Fireworkに参画しました。実は大学3年生のときに米シリコンバレーに留学し、当時出会ったのがFireworkの創業者2人だったんです。私には創業者の2人が輝いて見え、「ぜひ手伝いたい」と思って一緒に仕事をすることになりました。
私がFireworkに参画したとき、創業者の自宅でプロトタイプを開発する程度の規模でした。しかし創業者は、「10年後にはグローバルで使われるソリューションを作りたい」とスケールの大きな話を真面目にしていましたね。そんな姿勢に惹かれ、Fireworkの事業にのめり込むようになっていきました。
写真:Firework Japan カントリーマネージャーの瀧澤優作氏
鈴木:当時から動画ソリューションの可能性を探っていたのでしょうか。
瀧澤:いいえ、当時は「TikTok」のようなBtoC向けのアプリを開発していました。しかし競合が多く、事業を軌道に乗せられずにいました。ただし、そんな中でも「モバイルで動画を活用しながら情報を収集する」という体験は今後必ず広がると信じていました。昨今、YouTubeやTikTokなどのSNSでは動画が当たり前になっているものの、当時は企業のWebサイトやECサイト、アプリで動画はあまり使われず、消費者ニーズと企業の提供サービスに乖離が生じているときでした。こうした動きを見据え、企業向けに動画を活用するためのソリューション開発に舵を切ったのです。
鈴木:米国では企業が動画を積極的に活用しているのでしょうか。
瀧澤:米国では SNSの台頭と共に、ブランディングや販促の手段として動画を活用する動きが盛んです。こうした動きを推し進めるキモとなるのが、ショート動画の浸透と自社の動画制作リソース確保の2点だと捉えています。日本でも今後、企業が自社のWebサイトやアプリと動画を組み合わせ、動画で情報を発信する波が必ず来ると考えます。
鈴木:しかし、動画を活用しきれずにいる日本企業は少なくありません。日本企業への浸透が進まない背景としてどんな理由が考えられますか。
写真:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏
瀧澤:多くの日本企業の動画の活用領域は、自社および製品・サービスを「ブランディング」する手段にとどめています。そこには当然、“作り込まれた動画”が存在するわけです。どうアピールすべきか、どんな映像をどう見せようかなど、緻密に考えた企画や映像を用意するケースが大半です。その結果、動画が長尺になり、制作も外注せざるを得ないため、制作コストがどんどん上がり、頻繁に制作するのが難しくなってしまうのです。
しかし消費者に目を向けると、今求められているのはリアルです。SNSには数秒から数十秒程度の動画が溢れ、そこではリアルな状況がそのまま伝えられています。何十分も何時間もかかるような、作り込まれた動画は必ずしも求められていないのです。企業と消費者との間で動画への期待値にギャップがあること、企業サイドの制作コストの高さが、企業の動画活用が進まない根底にはあるのではないでしょうか。ショート動画であれば、その制作コストもグッと低くなります。
鈴木:動画は再生時間の長いものより、短いものの方が最近は支持されやすいのでしょうか。
瀧澤:はい。動画の再生時間が短くなればなるほど、リアルを感じられるようになります。数秒程度の動画でも、その一瞬に「見たい」と思わせる価値があるのです。2時間の長編映画を見たいという人がいる一方、数秒程度の動画を次から次へ見たいという人が増えているのが現状ですね。
ECサイトで店舗同様の接客を可能にするソリューション
鈴木:御社の動画ソリューション「Firework」は、小売事業者が利用することを想定しています。なぜ、小売業界をターゲットにしているのでしょうか。
瀧澤:商品だけの差異化が難しい昨今の環境において、各ブランドが競争優位性を保ち続けることは極めて難しくなっています。商品や技術に依存せず、長期的に消費者との深い関係を構築するには、これまで埋もれがちだった人や店舗など、ブランドの新たな魅力を活用・発信することが重要です。こう捉えたとき、動画は小売事業者の個性をより引き立てる強い武器になると考えます。アパレルや化粧品などのほか、自動車や家電、家具といった高額商品を取り扱う事業者にも馴染むソリューションだと自負します。
鈴木:動画ソリューションを活用すれば、小売事業者はECサイトでも動画を使って“接客”できるようになるわけですね。
瀧澤:その通りです。実店舗で商品を見たり販売員に説明してもらったりといったリアルな体験を、ECサイトでも提供できるようになります。販売員と実際に対話できない環境だからこそ、商品の使い方を分かりやすく説明できる動画の価値は極めて高いと考えます。販売員が接客して購入を後押しするように、ECサイトでは動画がその役割を担うようになるわけです。
鈴木:小売事業者の中には、動画をライブ配信して視聴者と対話するライブコマースに注力する動きがあります。Firework Japanとして、こうした事業者の取り組みをどう考えますか。
瀧澤:当社の動画ソリューションは新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、多くの小売事業者に導入いただきました。店舗を開けられない状況が続く中、ECサイトに注力し出した小売事業者が、店舗販売員をECサイトに配置して接客するようになったのです。こうした小売事業者の変化が、当社にとっての最初のグロースポイントになりました。
一方でコロナが終息した今、「ライブコマース」という言葉はミスリーディングであると感じています。ライブコマースと聞くと、大勢の人を一堂に集めたり、インフルエンサ―が限定商品を極端に値引いたりするなどの印象を持つ人が少なくありません。ライブコマースを実施すれば大きな注目を集められるものの、中長期的にはブランドを棄損しかねません。一時的に大量の在庫を抱えるリスクもあります。そこで当社は、「ライブコマース事業者」をこれまで銘打っていましたが、現在は「ライブコマース、やめました」と大々的に宣言しています。
鈴木:御社にとって大きな転換ですね。
瀧澤:当社では「デジタルショールーム」という言葉を使い、ライブコマースに抱くマイナスイメージを払拭できればと考えます。当社の動画ソリューションは、ライブコマースをするための機能を備えるにとどまりません。実店舗をデジタル化するための機能を包括的に備え、小売事業者の「デジタル店舗化」を促進することに主眼を置いています。
鈴木:「デジタル店舗化」を具体的にどう実現するのか。動画ソリューション「Firework」の特徴を教えてください。
瀧澤:当社が掲げる「デジタル店舗化」は、実店舗で得られる顧客体験をECサイト上でも提供できるようにするのが狙いです。動画ソリューションでは、デジタル店舗化を実現するための機能を特徴に打ち出します。
その1つが、縦型動画を活用するための機能です。スマートフォンで視聴するのに最適なショート動画を使い、商品の特徴や使い方を説明できるようにします。自社のECサイトやアプリに縦型動画を容易に実装できるのが強みです。動画を生配信し、1対数百から数万人の“ショールーム”を実施可能なデジタルショールーム機能も特徴です。
図:Webサイト上に縦型動画を配置した画面イメージ
さらに、「1:1動画接客」と呼ぶ機能も人気を集めています。これは自社のECサイト上で、サイト訪問者と1対1で接客できるようにする機能です。実はこの機能は、米国で高い注目を集めています。米国では新規開店に伴うコストを抑え、ECサイトに集中投資する動きが加速しています。実店舗よりもECサイトの方が売上・利益を確実に見込めると考えられているからです。そこで、実店舗に数人から数十人の専門販売員がいることを踏まえ、ECサイトも専門販売員による接客体制が必要と考えた事業者が「1:1動画接客」を活用し出しているのです。
図:「1:1動画接客」を用いたWebサイト上での接客イメージ
鈴木:ECサイトの弱点だった「接客」に対応できるようになるわけですね。
瀧澤:例えば米アップルは、ECサイト上で専門家にオンライン相談できる体制を整備しています。店舗で販売員に相談するような環境を、すでにECサイト上に構築しているのです。家電量販店を展開するベスト・バイも200人規模の販売員をECサイトに配置しています。さらに中国系企業の中には、実店舗を米国に出店せずにECサイトで接客できるようにし、利益を上げるケースも見られます。現地に拠点を構えずとも、遠隔から接客できるのが利点です。外貨を獲得する新たな手段として注目する日本企業も少なくないですね。
鈴木:動画を活用する動きは徐々に広がっていると思いますが、そんな中でも御社ならではの強みがあれば教えてください。
瀧澤:外資企業らしからぬ「泥臭さ」が強みです(笑)。これは弱みとも受け取れますが、多くの企業から「動画を企画・運用、用意するのが大変」という声をいただいています。こうした企業に動画ソリューションを提供しても、動画の積極的な活用は見込めません。そこでFirework Japanでは、企業の動画制作をサポートするクリエイティブチームを発足。動画を制作するノウハウがない、人材がいないという企業向けに、動画の制作を支援する体制も整えています。動画の制作から活用までを一気通貫で伴走支援できるのは、Firework Japanならではの強みだと自負しています。さらに当社のサービスサイトでは、動画活用に関する幅広い悩みを「壁打ち」ベースで相談できる機会も設けています。気軽な気持ちで動画活用を検討できる体制も整えています。
鈴木:実際に御社の動画ソリューションを活用して効果を上げた事例があれば教えてください。
瀧澤:日本では花王の化粧品ブランド、ルナソル様が当社の動画ソリューションを活用しています。ルナソル様の場合、百貨店に化粧品を卸していますが、購入者などの詳細なデータを取得しにくいのが課題でした。そこで自社でECサイトを立ち上げ、店舗で接客していた販売員をECサイトで接客できるようにしました。ECサイト上でも販売員による商品案内が可能になるのはもちろん、利用者一人ひとりの属性や関心を把握するN1分析を実施し、利用者に応じた接客を展開できるようにしています。利用者は実店舗で買い物をしたときに近い満足度を得られるし、企業側はリピーターやファン獲得にもなるわけです。
新たなオンライン体験の実現へ
鈴木:Firework Japanとして今後の展望や、ソリューション強化の予定などがあれば教えてください。
瀧澤:これまで同様、小売事業者の「デジタル店舗化」と愚直に向き合っていきたいと考えます。顧客の課題に耳を傾け、どんな支援を望んでいるのか、どんな未来を描いているのかを踏まえた支援を手掛けられればと思います。動画ソリューションを提供するだけではなく、当社の泥臭い強みを組み合わせたサポートをより拡充できればと考えます。一方で中長期的には、AR(拡張現実)や生成AIなどの先端技術を取り入れたソリューション開発にも力を入れていく考えです。
鈴木:動画ソリューションを利用する小売事業者や消費者に、どんな価値を提供していきたいと考えますか。
瀧澤:当社は最近、会社のビジョンを一新しました。「すべての人にオンライン体験の変革を」というメッセージを打ち出し、この理想の実現に向けて突き進んでいきます。消費者に対し、小売事業者とタッグを組んで新たなオンライン体験を通じた変革を感じてもらえればと考えます。一方の小売事業者に対し、すべてのWebサイトに人のつながりを生み出せればと考えます。これまでのWebサイト上での人とのつながりと言えば、文字と写真だけの素っ気ない手段を使う程度にとどまっていました。しかし、当社の動画ソリューションを使えば、Webサイト上でも実店舗で面と向かって話しているようなつながりへと昇華できるようになります。
鈴木:「店舗」の新たな姿が、御社の動画ソリューションを組み合わすことで思い描けるようになりました。動画の活用がますます広がる中、Fireworkの取り組みやソリューションはこれまで以上に注目されるに違いありません。今後の活躍、楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
瀧澤:ビジョンを踏まえ、新たなオンライン体験を提供する企業になれればと思います。こちらこそ本日はありがとうございました。